Chapter 5.2
製造者の義務と適合性
機械規則は、EU市場で機械を取り扱う事業者の義務を再定義し、その適用範囲を拡大します。規則への適合を確保し、製品にCEマーキングを表示するため、製造者は技術文書の整備や適合宣言の更新に加え、サイバーセキュリティや安全関連機能に関する新たな要求事項にも対応する必要があります。
経済事業者の役割と義務
機械規則が機械の製造者に義務を課すことは、驚くことではありません。しかし、従来の規則とは異なり、機械に関わるその他の事業者、いわゆる「経済事業者」の役割と義務についても定めています。
2008年にCEマーキングに関する一般的な枠組みが見直されて以来、EUでは新たな指令や規則が数多く導入されてきました(規則(EC)No 765/2008など)。しかし、従来の機械指令は、こうした新たな法的枠組みに対応できていませんでした。新しい機械規則は、この状況を改善するものです。
機械の使用者を除き、機械の流通や使用に関わる重要な役割を担う事業者は、主に4つのグループに分類されます。これらは総称して「経済事業者」と呼ばれます。

経済事業者の義務
責任/担当者 | 製造者 | 認定代理人 | 輸入者 | 流通業者 |
製品の適合性に全面的な責任を負う | X | X* | ||
適合性評価を実施する | X | |||
技術文書を作成する | X | |||
製品識別情報を付与する | X | |||
取扱説明書・安全情報を提供する | X | |||
適合製品のみをEU市場に提供する | X | X | X | |
EU適合宣言書を作成する | X | X | ||
CEマーキングを表示する | X | X | ||
技術文書・適合宣言書を10年間保管する | X | X | X | |
不適合発生時に是正措置を講じる | X | X | X | X |
製造者・輸入者の義務履行を確認する | X | X | ||
不適合製品への是正対応を担う | X | X | X |
*製造者の身元が明らかにされていない場合
製造者にとって何が変わるのか?
機械の製造者は、機械規則において主要な義務を負う立場にあり、最も大きな責任を担います。
主な変更点は、製造者が負う以下の義務に影響します。
CEマーキング、技術文書、取扱説明書に関する要件の変更
使用済み機械や改造された機械において、CEマーキングが新たに必要となる場合
高リスク機械に対する適合性評価要件
リスク評価に関する追加要件
健康および安全に関する要件の変更・追加
AIを用いた制御システムの安全機能
大型機械における脱出・救助用スペースの確保

技術文書(テクニカルファイル)
EU法令における技術文書は、主に取扱説明書を指すものではありません。機械の安全性や法令への適合性を証明するために作成・保管する文書を指します。
この文書は「技術ファイル」とも呼ばれます。リスク評価、設計文書、図面、図表、安全に関する計算書、試験報告書などを含める必要があります。

機械規則で技術文書に求められる新たな要件とは?
人と機械が協働する場合のリスク評価
人と機械が共存・協働することで生じるリスクについて、評価を実施する必要があります。このような機械は通常、ガードで隔離されず、協働作業エリアで使用されます。協働ロボットのアプリケーションや産業用モバイルロボットなどが該当します。こうしたアプリケーションの安全性は、設備に設置されたセンサーだけでなく、速度や力の制限、協働作業エリアの明確な区分にも依存します。そのため、リスク評価の結果を文書化したレポートが必要です。
複数の機械で構成されるシステムのリスク評価
複数の機械が連携して動作するシステムについても、リスク評価を実施する必要があります。これは新たに導入された考え方ではありませんが、機械規則で明示的に規定されています。
リスク評価レポートの記載事項
リスク評価レポートには、特定されたリスク、それらを低減するための安全対策、および機械規則の附属書IIIに定められた健康・安全要求事項との関連を詳細に記載する必要があります。また、どの要求事項が適用され、それぞれが満たされているか、どのような方法で適合性を確保したかを明確に示す必要があります。
調和規格を適用する場合のリスク評価
調和規格を適用する場合は、その規格が対象とするリスクと、リスク低減措置との対応関係を明確にする必要があります。規格の一部のみを適用する場合は、その適用範囲を明示する必要があります。
これらの要件が強化された目的は、講じられた安全対策のトレーサビリティを確保することです。製造者は、製品が機械規則に適合していることを一般的な説明だけでなく、具体的な根拠に基づいて示せるようにする必要があります。

機械のサイバーセキュリティ
機械はソフトウェアによって制御されることが増えており、工場内のネットワークや、場合によってはインターネットを介して通信するため、サイバーセキュリティが重要な課題となっています。
EUのNIS2指令は、機械やシステムを運用する対象企業に対し、サイバー攻撃から事業運営を保護するための対策を求めています。特に、重要なインフラに関わる企業が対象となります。対象となる業種には、電気機器や機械の製造業も含まれます。
したがって、対象となる企業には、サイバーセキュリティを確保した機械やシステムが求められます。機械規則では、機械の安全機能がサイバー攻撃によって損なわれることを防ぐための最低限の要求事項が導入されています。通常のリスク評価に加えて、製造者はサイバー脅威を特定し、安全機能への攻撃によって生じるリスクを評価する必要があります。
そのうえで、機械が設計上および初期設定の段階から安全性を確保できるよう、適切な保護方策を講じなければなりません。したがって、機械規則は、EUのサイバーレジリエンス法(CRA)* が一般的に規定する内容のうち、機械の安全性に関わる側面を扱っています。
*CRAの正式名称は Cyber Resilience Act(Regulation (EU) 2024/2847)です。

EU適合宣言書の変更点
機械規則に関してよく寄せられる質問の1つに、EU適合宣言書(DoC)の記載内容をどのように変更する必要があるか、というものがあります。答えはシンプルですが、いくつか注意すべき点があります。 2027年1月20日以降、EU適合宣言書には機械規則(EU)2023/1230を記載する必要があります。それまでは、機械指令2006/42/ECが引き続き適用されます。
適合宣言書(DoC)には、どの規格・法令を記載すべきか?
機械システムの完成時期や、シリーズ製品の各機械が流通業者または最終使用者に引き渡される時期が明確でない場合、どうすればよいでしょうか?
次の2つの対応が考えられます。
可能な限り早い段階で、機械が機械指令の要求事項を満たしていることを確認してください。
適合宣言書(DoC)に機械指令と機械規則の両方を記載し、製品が2027年1月19日までは機械指令の要求事項に、2027年1月20日以降は機械規則の要求事項に適合することを明記してください。

多くの人が疑問に感じるもう1つの点:
「適合宣言書(DoC)には、どの規格を記載すべきか?」
2027年1月20日の時点では、機械規則に関する調和規格の一覧がまだ利用できない可能性があります。また、現在DoCに記載している規格が、その時点で利用可能な一覧に含まれていない場合もあります。
機械安全に関する規格の多くは、機械規則によって大幅な変更を受けないため、移行期限を過ぎた後も引き続き使用し、DoCに記載できる可能性があります。ただし、DoCに記載するすべての規格が、EUが機械指令に基づいて最後に公表した一覧に含まれていることを確認してください(直近の更新は2026年9月7日に公表されました)。
DoCに関するもう1つの変更点は、「技術文書を作成する権限を有する者」の氏名などを記載する必要がなくなったことです。この者は、製造者、製造者の代理人、または輸入者のいずれかと考えられます。これらの経済事業者の連絡先情報と役割はDoCに記載されるため、別途記載する必要はありません。

デジタル形式の取扱説明書と長期的なアクセス
EU法令では、すべての機械に取扱説明書(法令上の「指示」)を提供することが求められています。
大規模な機械や機械システムでは、数百ページに及ぶ複数のフォルダーや文書を用意しなければならない場合があります。しかし、こうした書類は取り扱いが煩雑で、必要な情報を探すのも容易ではありません。
機械規則では、取扱説明書をデジタル形式で提供することが認められています(必須ではありません)。ただし、デジタル形式で提供する場合は、いくつかの要件を満たす必要があります。取扱説明書は、次の条件を満たさなければなりません。
印刷できること
保存できること
機械の制御システムまたはウェブサイトから検索できること
製造者が取扱説明書をデジタル形式で提供する場合、機械の想定耐用期間全体、または少なくとも10年間、インターネットからダウンロードできる状態にしておく必要があります。そのため、製造者は、特定の機械の取扱説明書を数分以内に提供できるコンテンツサーバーを用意する必要があります。
取扱説明書には、安全に関する重要な情報や、障害発生時・緊急時に必要な詳細情報が含まれる場合があるため、容易にアクセスできることが重要です。機械の銘板にQRコードやバーコードを付け、取扱説明書に直接アクセスできるようにすることが推奨されます。適合宣言書についても、同様に容易にアクセスできるようにする必要があります。情報をダウンロードする際に、通常、特別な資格情報を使ってウェブサイトにサインインする必要はありません。
<イラスト:書類で埋まったフォルダーの山と、その横に置かれた取扱説明書のアイコンおよびQRコード>

「部分的に完成した機械」の新たな定義
機械指令に関して、これまで頻繁に議論されてきた問題の1つが「部分的に完成した機械」の定義です。この問題は、現在も引き続き議論されています。製造者と機械の使用者の双方にとって、従来の定義の適用範囲や、その正確な意味を理解することは容易ではありませんでした。
この変更で特に注目すべき点は2つあり、これまで多くの議論を呼んできた問題の解決につながります。
「部分的に完成した機械」とは、統合者が部品を追加したり、組み立てたりして、他の機械と統合した後に、初めて機械として機能するものを指します。
この定義には、従来から次の3つの基準があります。
(1)複数の部品で構成され、そのうち少なくとも1つが可動すること
(2)単独では特定の用途を実行できないこと
(3)他の機械や設備に組み込む、または他の機械や設備と組み合わせることを意図していること
これまで、この定義を解釈する際、(2)または(3)のいずれか一方を満たせば「部分的に完成した機械」に該当すると考えられることがありました。しかし、新しい定義では、3つすべての基準を満たす必要があることが明確になりました。
この変更によって、何が変わるのでしょうか?
部分的に完成した機械を統合する事業者は、統合後に完成する機械の製造者となり、その機械の安全性、CEマーキングおよびEU適合宣言書(DoC)に責任を負います。一方、部分的に完成した機械の製造者は、その設計において一部の安全上の問題に対処することができます。どのリスクを低減し、どのリスクへの対策を統合者に委ねるかは、製造者の判断によります。また、その役割分担について契約で合意する場合もあります。
3つすべての基準を満たさない組立品は、CEマーキングとEU適合宣言書(DoC)が必要な機械に該当するか、機械規則の対象外となります。
「部分的に完成した機械」に関するもう1つの重要な変更点は、附属書XIにあります。部分的に完成した機械に関する「組立てに関する指示」の定義が拡張され、最低限記載すべき要件が追加されました。
特に重要な追加要件は、次の2点です。部分的に完成した機械の製造者は、
組み込まれている安全機能、および統合者が追加する機能に関する情報を提供する必要がある
部分的に完成した機械の運用および保守に関する説明を提供する必要がある
